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緊縛シロウト理性解放実験記 [ 1 ]

性的経験は人並み、性欲は人並み以下。ただ、SEXの最中に囓られて悦ぶ程度の被虐欲を持っている。思い切り歯を立てられて感じる痛みと、事後に打撲痕の如く変容する噛み跡を眺めるのが好きだった。

それでも、緊縛はたとえ来世でも縁遠かろうと思っていた。もとより、他人が痛みに耐える姿は好きじゃない。虐げる様も見ていられない。子どもの些細ないじめからでさえ、胸を裂かれるほどの衝撃を受ける。そんなだから、SMは、顔を背けたくなる世界だったかもしれない。

だが或る日、縄と出逢った。

着衣のまま、縛る。静謐の空間で、縄の這う音、気配、匂いだけが響く。縛り手の喜多氏は縄とわたしの間を縫う。まるで影のようであった。

私は理性が人一倍強い。人が五感で受け取るあらゆることは、言語化できると信じて生きてきた。人は、言語の生き物だから。そして因果の説明さえつけば、納得せざるを得なくなる。傷つかなくて済む。そうして我が身を守って生きてきた。

縄は、私の身体の自由を奪う。自分の意思で動くことを許さない。顔についた埃を払うこともできない。痒くても、耐えるしかない。完全なる受動に、深い安堵と悦びが満ちた。動けぬまま、痛楚と羞痒を交互に受けて、堅い理性が少し砕けた。視界が漆黒に溢れた。有り体に言うならば、言葉にできぬ世界は在る。意識の世の狭きを垣間見た。

縄に我が身と心を惹かれ、理性の殻剥きのはじまりはじまり。

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