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縛り屋 結二(その二)の投稿

テレビドラマ用脚本

 

題 名  縛り屋 結二

作 加藤(じょう)() 

 

 

第一話 どうせ縛られる人生(その二)

 

前号のあらすじ

縄手結二(なわてゆうじ)は、中堅繊維メーカーの MS紡績の社員だったが、一方で、縛り屋という裏の顔を持っていた。 MS紡績に、富士見物産から次世代繊維のハムラー繊維提携の仕事を持ちかけられるが、実のところは、フューチャー商事が間に入った胡散(うさん)臭い事業であった。しかし、 MS紡績社長の太刀川は、私生活で問題を抱えていたこともあって、その契約を強引に進めてしまう。事態を打開しようと、結二とその同僚の三谷が、フューチャー商事に乗り込もうとしていた。

 

(シーン7)

 フューチャー商事が入った高層オフィスビルは、六本木のビル群の中にあった。そのビルの前に、結二と三谷が立っていた。

三谷「このビルの三十四階にフューチャー商事のオフイスがある」

結二と三谷は三十四階あたりを見上げた。

結二「勝算はあるのか?」

三谷「正直なところ自信があると言えば嘘になる。・・しかし、やるしかないだろう。まあ、出たとこ勝負だ」

 二人は顔を見合わせると、意を決してオフィスビルの入り口へと向かった。

 

(シーン8)

 フューチャー商事の社長室。結二と三谷が入ると、すでにフューチャー商事の満田とその部下が待っていた。三谷にしても、この部下は初めて見る顔だった。しかし、人相が悪く、どう見ても一流企業のサラリーマンには見えなかった。

三谷「満田さん。代表自らご対応いただけるとは恐縮です。お忙しいところをすみませんでした」

満田「他ならぬMS紡績の方がお見えになられたのですから当然です。さあ、どうぞお座りください」

 三谷と結二は促されるままにソファに座った。

満田「ところで、ご用件は何でしょう?」

三谷「お忙しいでしょうから単刀直入に申します。今朝結ばれたライセンス契約の件についてですが、ハムラ―繊維の製造システムの導入にあたっての契約条件には、あらかじめハムラー繊維の製造で使用する原料の種類と量、それに発生する物質の種類と量を示していただくことになっています。製造過程で発生する物質と量を教えていただけますか」

満田「それはすでに提示したでしょう」

 満田は面倒臭そうに、窓の外を眺めた。

三谷「はい。おっしゃるとおりです。ですが、お示しいただいた資料にはいくつか疑問点がございまして」

 そこまで聞いて満田の表情が険しくなった。

満田「太刀川社長は、このことはご存じなんでしょうね?」

三谷「もちろんです」

満田「確認させてもらってもいいですか?」

三谷「どうぞ」

 満田は携帯電話を取り出し電話をかけ始めた。

 

(シーン9)

 太刀川の社長室。机の上に置かれた携帯電話が鳴っている。隣接する会議室では、太刀川は画面に映し出されたデモビデオを見つめていた。その両耳にはイヤホンが付けられている。その脇では女性社員Cが機器の操作をしていた。それは、新しい素材を使ったオートクチュールのプロモーション用ビデオだった。

社員C「社長、音量はいかがですか?」

太刀川「そうね。もう少し大きくしたほうがいいかしら。」

 社員Cは頷くとボリュームをゆっくりと大きくした

太刀川「・・音楽は悪くは無いわね。でも、衣装のデザインはどうかしら。少し色が明るすぎないかしら」

美樹「はい、かしこまりました。そのように製作者に伝えます」

社員Cは、太刀川の言葉を聞き逃すまいと必死にメモをとっていたが、奥の社長室で鳴る太刀川の携帯の音が鳴っていた。そして、その音は会議室の外でやりとりを見守っていた美樹にはしっかりと聞こえていた。やがて電話の音が鳴り止むと、美樹はその場を後にした。

 

(シーン10

 満田の執務室の中。満田はなかなか電話に出ない太刀川に業を煮やして忌々しげに電話を切った。

三谷「出ませんか?」

 涼しい顔で尋ねる三谷に対して、満田は機嫌悪そうに応えた。  

満田「いいでしょう。続けましょう。ハムラ―繊維の製造にかかる材料及び発生物質については先ほど申したようにすでにお示ししました。もう契約も終わっています。いまさら何が言いたいのです?」

三谷「おっしゃる通りに確かにお示しいただきました。ですが、材料から見込まれる製品の組成と、試作品の組成との間には乖離(かいり)があるのです」

満田「乖離だと?」

三谷「そうです。どうも製造過程であまりよろしくない物質が発生するようなのです。でも、その物質はまだお示しいただいていないので、それを確認しにまいったのです」

 満田の表情がにわかに変わった。

満田「どうしてそれを・・・?」

 と言いかけて、すぐに口をつぐんだ。三谷と結二は顔を見合わせた。

三谷「やはりそうでしたか?どうもおかしいとは思っていましたが」

満田「ふん、今ごろ気づいたところでもう遅いわ」

 満田は時計を見た。

満田「前金ももう振り込まれている頃だ」

三谷「いいえ、振り込みは三時ぎりぎりに行うことになっています。それに、すぐに連絡すれば取りやめる手はずになっています」

 こめかみに青筋を立てた満田は、机の横にある赤いボタンを押した。すると、すぐに奥から屈強な男が二名現れた。

満田「日が暮れるまでここにいてもらおう。おとなしくさえしていれば手荒なことをせずに済む」

 満田の声色がドスの効いたものになっていた。おそらくこちらが地声なのだろう。男たちは結二と三谷の背後に回ろうとした。男の一人が結二の肩に手をかけようとした刹那、結二は持っていた縛り縄を取り出すと、その手に縄をかけ、素早く男が身動きできないように縛り上げた。捕縛術の早縄の技だった。満田と男たちが結二の技に気をとられた隙に、三谷は目の前の男を突き飛ばすと、結二とともに部屋を飛び出した。

 エレベーター待ちしていた数人の男を押しのけるようにして二人はエレベーターに乗ると、一階まで降りてビルを飛び出した。しばらく駆けたところで、二人は建物の陰に身を隠した。

結二「さっきのやり取りは録音できたんだろう?」

三谷「ああ、ここにある」

 三谷はポケットからレコーダーを取り出して見せた。

結二「ここは俺がやつらを引きつける。その間に勝(まさる)は社に連絡して振り込みを阻止してくれ」

三谷「分かった。だが、大丈夫か?」

結二「心配はいらん。それよりもお前の役目の方が重要だ。ぬかるなよ」

 三谷は大きく頷いた。それを見届けると、二人の方に向かって駆けてきている満田たちにわざと見えるように結二は跳び出すと、通りを横切って走っていった。

満田「いたぞ。追え!」

 結二は狭い路地を選んで、右に左に複雑に進路を変えていった。満田らが自分を見失わないようにしながら、それでいて絶対に捕まらないように微妙な距離を保っていた。そうこうしているうちに、地下鉄の入り口の前に出た。結二は今度は複雑な地下鉄の構内を利用して時間稼ぎをしようと考えた。とその時、鉢合わせするように、地下鉄の入り口から美樹が飛び出してきた。

結二「うっ!・・・美樹!どうしてここに?」

美樹「あら?結二・・・えっ?えっ?・・」

美樹は、結二の姿を見て驚いたが、さらにその後ろから結二を追ってくる男たちを目にして、まったく状況が呑み込めないでいた。すると、結二を追ってきていた満田が、美樹の姿を認めて、

満田「その女もMS紡績の者だ。一緒に捕まえろ!」

 と叫んだ。

結二「美樹、こっちだ」

 結二は美樹の手を引くと、すぐ近くの狭い路地に駆け込んだ。まるでこのあたりの土地勘があるかのように、結二はたくみに道を選んで走っていた。やがて数ブロックを駆け抜けた頃、目の前にブティックの店が現れた。看板にはGLIMDYと描かれていた。結二は迷わずに店の戸を開けた。中にいたのは店主のあや2だった。※2:名前を「正道寺(しょうどうじ)あや」と言う

あや「いらっし・・・、あら結二じゃない。どうしたの?そんなに慌てて」

結二「追われている。二階に上がるぞ」

 結二は脱いだ靴を手に持ち、息のあがった美樹の手を引いて二階にかけ上がった。

 その直後に店の表は慌ただしくなった。満田と配下の男たちが二人を見失って探しまわっていた。

満田「変だな。どこかに隠れたか」

A「この店はあやしくないですか」

 満田は店のドアを激しく開けると、驚いた表情のあやに問いかけた。

満田「おい、誰か来なかったか?」

あや「あ、あなたたちは誰ですか?」

 満田たちは、あやの問いには答えずに、店の中を物色し始めた。

あや「やめてください。誰も来てませんよ。警察を呼ぶわよ」

 満田が奥の階段に気づいて階上を見上げると、あやはすぐに110番に電話をかけ始めた。電話はすぐにつながった。

あや「もしもし警察ですか?助けてください!変な人たちが店に押しかけてきたんです」

満田「ちっ、もういい。おい、行くぞ」

 満田は男たちを引き連れて店を出て行った。

 

その頃、二階の和室では結二と美樹が息を潜めていた。

結二「どうしてフューチャー商事にまで来たりなんぞしたんだ?」

 結二は声を潜めて美樹を問い詰めた。

美樹「ごめんなさい。結二と課長が心配だったから・・」

 下をうつむく美樹に、結二は仕方がないという顔で口をつぐんだ。

美樹「ここはどこ?」

結二「知り合いの家だ」

 そう言われて、改めて美樹は部屋の中を見回した。先ほどまでは気がつかなかったが、部屋の中の様子は異様だった。畳の敷かれた和室には家具は何一つ無かった。その代わりに、壁の一面には鴨居に結わえられた青竹に数十本もの色縄が吊るされ、まるでタペストリーが掛けられているように見えた。引き戸の位置にある鴨居には頑丈そうな金具が設けられ、いかにもそこに何かを吊り下げるといった様子が見て取れた。

 しばらくして階段を上る人の足音が聞こえてきた。

あや「もう大丈夫よ。あいつらは去っていったわ」

 その声と一緒に襖が開き、あやが部屋の中に入ってきた。

結二「すまんな。迷惑をかけて」

あや「あら、いつものことじゃない。」

 あやはそういうと視線を美樹に向けた。

あや「あら、結二のガールフレンド?かわいらしい人ね」

 あやは、からかい口調で笑った。結二は苦笑いしながら、ポケットのスマホを取り出し、三谷からのメールを確認した。

結二「よかった。間に合ったようだ。わが社は助かったぞ」

 それを聞いて、美樹は小躍りして歓声をあげた。

あや「事情はよく分からないけどうまくいったみたいね。祝杯でもあげようかしら・・・、あらごめんなさい。結二はお酒を飲まなかったわね」

結二「代わりに二人が飲めばいいさ。驕りだ。景気よくいこうか」

 三人は笑顔を見せて階段を下りて行った。

 

(シーン11

 ㈱MS紡績の会長室の中。会長の根岸が厳しい目で太刀川を睨みつけていた。太刀川は直立不動で立っていた。

会長「今回のことは大失態だったな。ずいぶんと会社に損害を与えてくれたもんだ」

太刀川「申し訳ございません」

 太刀川は大きく頭を下げた。

会長「謝って済むのなら誰も苦労はせん」

太刀川「全ては私の責任です」

会長「責任をとると言ったところで損失を埋め合わせることなどできないだろう。山田、損失額はいくらになるか説明してみろ」

 営業部長の山田が口を開いた。

山田「フューチャー商事とのライセンス契約に基づく前金は振り込まずに済みましたので、幸いにその損失はありません。ですが、㈱富士見物産の分はすでに振り込まれていました。まずいことに、契約書では、両社が負った損害は第一義的にMS紡績が負うと読めるような微妙な記述がありましたので、須藤部長は、その条項を盾に、その損害分の支払いを弊社に要求してきています。その額は約二億円です。現在、顧問弁護士と相談して、何とか支払わずに済むように交渉しているところですが、最悪の場合、この額が全て損失分となる可能性があります」

会長「二億か、当社にとってはけっこうな額だが、この山田や三谷らの尽力がなかったら、前金がまるまる盗られていたところだった。この程度で済んで良かったと考えるべきなのかな。・・しかし、独断でたいへんなことをしてくれたもんだ」

 会長は苦々しい顔で再び太刀川を睨みつけた。

会長「この山田はずいぶんと反対したと言っているぞ。部下の言うことすら聞けなくなってしまったのか。あれだけ目をかけてやったのに、どうやらわしの目は節穴だったようだな」

太刀川はもう何も言うことができずにただうつむくのみだった。

 

(シーン12)

 美樹は一人でブティックGLIMDYのドアの前に立っていた。やがて美樹は意を決してドアのチャイムを鳴らした。しばらくして、ドアがゆっくり開き、中からあやが顔を現した。

あや「いらっしゃいませ。・・・あら、美樹ちゃんじゃない」

 美樹は深々とお辞儀をした。

美樹「覚えていてくださりましたか。あの折は大変お世話になりました」

あや「どうぞ、入って」

 あやは、あえて二階の和室に美樹を通し、しばし一人で待たせた。怪訝な面持で周りを見渡す美樹の前に、湯呑みを持ったあやが現れた。

あや「聞きたいことは分かっているわ。ここがどういうところかということでしょう」

あまりに図星だったので、美樹は返答に窮した。

あや「結二が話さなかったのに、私の口から話すのはちょっと心苦しいけど、まあいいわ。せっかく来てもらったことだし、どのみち結二もあなたにはいずれ話さなければいけないことだと思うし・・・。それに別にやましいことは何も無いわ」

 まるで自分に言い聞かせるようにしてそう呟いたあやは、部屋の鴨居の上に設けられた神棚を顎で指した。

あや「あそこに赤い縄があるでしょう」

あやの言うように、神札の前に赤い麻縄が蛇のとぐろのように巻かれ、白い幣(ぬさ)が添えられていた。

あや「あれは結二のお母さんなの」

美樹「えっ?」

 美樹にはその言葉の意味が全く理解できなかった。

あや「結二は孤児だったの」

今度は美樹の眼が大きく見開かれた。

あや「やや肌寒さを感じ始めた秋の夕暮れに、とある神社の境内の前に赤ん坊が寝かされていたの。その子の身体には、赤い縄が巻かれていたそうよ。いえ、巻かれていたのではなく、見たことも無いとても不思議な縛り方がなされていたそうよ。施設で育った結二は、唯一の母の手掛かりだったその赤い縄が何だったかを物心ついてからずっと調べていたわ。やがて高校生の時にこれが縛りのための縄だと知ったの」

美樹「しばり・・・?」

 あやは壁に歩み寄り、壁に掛けられている五色の縄を指でたぐった。

あや「あなた、男娼(だんしょう)って分かる?」

 美樹は首を振った。

あや「娼婦は知っているでしょう。その男版よ。ただし、女ならば身体を提供するだけでいいけど、男の人はそれではすまされない。女性を悦ばせなければならないから、そのための技が求められたの。その技の一つが縛りなの」

 美樹は一言も発することが出来ず、ただ聞き入っていた。

あや「巷(ちまた)ではこんな縛りの技は変態プレイのための道具としか思われていないけど、本当は違うわ。縛りの技は、もともと罪人の捕縛術に端を発するらしいけど、いったん捕えた罪人が亡くなったりしたら困るので、縛りによって身体の一部が壊死したりしないように、逃げられないけれど身体にはやさしい縛り方が研究されていったの。その過程で、身体には縛ると心地良いツボがあることが分かり、それらの技術が体系化されていったの」

美樹「お母さんに関係しそうだから結二は縛りの道に入ったの?」

あや「まあ、そうね。・・・赤い縄をたどっていったら、男娼だった縄手(なわて)という男に結二は出会ったの。あの頃の結二はお母さんにたどりつけそうなことはなんでもやったから、縛りを縄手さんから習ったの。どうして縄手さんだったのかは分からないけど、たぶん馬が合ったんでしょうね。ただし、縄手さんは独身で高齢だったから後継ぎがいなかった。だから結二を養子に迎えたの。結二が縄手と名乗り始めたのはこの時からよ」

美樹は、再び部屋にかけられた縄を見つめた。

あや「でも勘違いしないでね。結二は男娼としての縛りはやってはいないわ。縛りって不思議なもので、身体の自由は奪うけど、同時に心に巣食ったモヤモヤを、・・まあ人間の業(ごう)というか、そんなものも一緒に縛ってしまうのよね。その結果、素のままの自分が出てくる。それは肉親間のわだかまりだったり、他人への恨みや妬みだったりするけど、誰もがやむを得ず抱えて生きている、そんなものが出てきた時に、それが自分の心に巣食っていることを自分で認めると、それがスーッと消えていくのよ。だから縛られた人は皆別人のような顔になって帰っていくわ。結二は縛りを人助けのためにやっているのよ。まあ、いわばセラピストと同じね」

そう言い終えて、あやは美樹の顔を見た。それまで険しかった美樹の表情から険が消えていた。少しは安心した様子の美樹は、湯呑みを手にとったが、掌の中で湯呑みを持てあまし、次の行動が定まらない様子だった。どうやら何かを口にしたくてもそれを言い出せないようなそんな煮え切らない様子に、

あや「まだ何かまだ聞きたそうね?」

と美樹に尋ねた。正直なところ、美樹があやに本当に聞きたかったことは他のことであり、そのことを言いだせないでいたのだった。

あや「聞きたいのは私と結二の関係でしょ?」

 美樹は目を丸くしてあやの顔を見つめた。その顔は図星だと言っていた。

あや「別に心配しなくてもいいのよ。ただの幼馴染(おさななじみ)だから。お互いに空気ぐらいにしか思っていないわ。」

そこまで言ってあやは横目で美樹の顔を見ながら、

あや「結二の縄はいつも受けているけど、身体の関係なんかはないから心配しないで」

 と話すと、美樹の顔から安堵で緊張がとれたのを見逃さなかった。あやは意地悪く続けた。

あや「でも、結二は私なんかじゃなく、他の女の人のことで頭はいっぱいのはずよ」

美樹の目が見開かれ、再び表情に緊張感が戻った。その様子を見てあやは笑いだした。

あや「ごめんなさい。ちょっと驚かせちゃったみたいね。あなたもMS紡績の社員なら知っていると思うけど、縄染め師の水島麗子先生に結二はよく会いにいくでしょう」

 美樹は思わず「えっ!」と声を上げた。確かに結二が麗子と会っている時は、これ以上ないと言えるほど幸せそうだった。

あや「結二の頭の中には女性と言えば水島先生しかいないわね」

美樹の顔がだんだん泣き顔になっていった。

あや「ただ、勘違いしちゃだめよ。結二は水島先生に母親の面影を重ねているだけなの。」

美樹「母親・・・?」

あや「小さい頃から結二はずっと自分の母親を捜し求めていたわ。やがて、それが難しいことを悟った頃に、ちょうど結二は水島先生と出会ったの。これは私の想像だけど、たぶん結二が思い描いていた母親像と水島先生がそっくりだったのだと思う。それ以来よ。まるで飼い猫のように水島先生に懐いているわ」

 美樹には、確かにそう考えると、二人の関係はしっくり理解できるように思えた。

あや「水島先生もあの歳で未亡人でしょ。若い子にあんなに慕われるいのもまんざらじゃないみたい」

 美樹はやっと笑顔を取り戻し、残った茶を飲み干した。あやは宙を見つめ、ぽつりと呟いた。

あや「結二の心の枷(かせ)はお母さんね。お母さんへの思いが少しは和らげばもっと楽に生きられると思うけど・・・。本当は縛りいれないわ。結二のことお願いね」

美樹「私だって縛りなんかできません」

あや「別に結二を縛って欲しいと言ってるんじゃないわ。あなたなりに優しく接してもらえばいいわ。そうすれば結二の心もいい感じに解けていくと思う」

美樹はこくりと頷いていた。

 

次号に続く

 

(エンディングナレーション)

「縛り屋、彼は天に代わりて人の心にかかる雲を祓う。その手に握られた縄に込められた思いを誰も知ることはない。今宵、結二はいったい何を縛るのか?」

縄士のいでたちである赤い半纏姿の結二の後ろ姿が映し出され、結二はゆっくりと画面の奥に向かって歩いてゆく。

~バックにエンディングテーマ曲が流れる~♪~

 

(テロップ)

 「本番組の内容は全てフィクションです。実在する個人や団体とは一切関係ありません。本番組内で登場する縛りの技法は、専門家の指導のもとに実施したものです。危険ですから絶対に真似をしないでください。」

「縛り指導 喜多征一

キュレーター紹介

謎の作家。詳細不明。

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