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縛り屋 結二の投稿

テレビドラマ用脚本

          題 名   縛り屋(しばりや) 結二(ゆうじ)

作 加藤(じょう)() 

 

 本作品は、テレビドラマとして連載されることを前提として、シナリオ形式で書き起こしたものです。ですので、小説の形態とは異なりますが、それなりに読めることと存じます。各話を1時間ドラマとして、それぞれ3~4回程度に分けて掲載します。どこかでお会いできた時に感想を聞かせていただけると幸いです。(作者)

 

 

第一話「どうせ縛られる人生(その一)」

 

(シーン1)

低層ビルの立ち並ぶ街かどに三階建てのビルが通りに面し、その一階にはブティックGLIMDYがひっそりと店をかまえていた。東京都心の中なのに、そこがやや駅から離れているためか、周辺は落ち着いたたたずまいを見せていた。そのビルの二階にある八畳の和室には家具は何も無かった。土壁風の壁の天井近くに太い青竹が横切り、そこに数十本の色とりどりの縄が掛けられていた。市松柄に色分された障子の奥では、赤い打ち掛け風の半纏を羽織った三十路あまりの男が一人の女性を縄で絞めあげていた。四十路(よそじ)あまりのふくよかな女性は、服が露わに乱れた格好で、恍惚の表情で黙ってなすがままにされている。男は端正な男前の顔立ちで、歳は三十前後であろうか。この男、名前を縄手結二(なわてゆうじ)と言う。結二は女性の反応をみながら、次々に異なる縛り技をかけてゆき、それに誘(いざな)えるように女性はやがて悶絶していった。結二が縄をほどくと、女性は結二の胸に顔を埋め、声を詰まらせて嗚咽(おえつ)を漏らし始め、やがてそれは号泣へと変わっていった。女性がやっと落ち着くと、結二はゆっくりと語りかけた。

結二「もう落ち着きましたか?・・」

 女性は胸元の服の乱れを両手で押さえてゆっくりと頷いた。

女性客「今日は長年の胸のつかえが全部とれてしまったような気がします」

結二「今日の縛りの究極の技である観音縛りです。誰もが持ちうる業(ごう)が溶け去ります。ただし、この技は特別な方にしか使わない縛り方です」

女性客「この歳までずっと母を恨んできました。自分では母を恨んではいないと思っていましたが・・いえ、そんなことをしてはいけないと自分に思い聞かせてきたにすぎません。ですが、やはり自分の心には嘘はつけないものです」

結二「素直に自らの感情を認めてください。そうすれば心の闇は祓われます。自分に正直に向き合って、素のままの自分を出すことでしか人は救われません」  

そうやさしく語りかける結二に、女性はうれしそうに上目使いに結二の瞳を見上げると、厚めの封筒をそっと結二の手を包み込むように握らせた。結二は黙って封筒を懐に入れた。

 女性が部屋を出て階段を下りると、ブティックの若い女店主が黙って笑顔を浮かべた。歳よりも童顔に見える店主はそれに笑顔で応えると、そのまま店を後にした。女性が立ち去った店には「GLIMDY」の看板が掲げられていたが、その下には小さく「縄手(なわて)道場」と書かれているのが見えた

 

(シーン2)

昼下がりの㈱MS紡績の社長室の中。社長の太刀川恵子(たちかわけいこ)が、椅子に深々と座ったまま、机に両足をかけていた。太刀川はその手には不自然に曲がった白い針金ハンガーが握られていた。社長室には直立不動の山田敏(やまださとし)営業部長と、その後ろに立つ営業課長の三谷の姿が見えた。

山田「・・その件はもう少し検討させてもらえませんか」

頭頂が薄くなって広くなった額に、山田部長は玉の汗をびっしりと浮かべて頭を下げていた。そんな山田部長を冷ややかに見つめていた太刀川は、椅子から立ち上がると、山田の横に大股で歩み寄った。

太刀川「ちーがーうーだろ!」

 山田の耳元で声を張り上げる太刀川に、山田は身をよじって顔をしかめた。

太刀川「お前、頭おかしいよ。生きてる価値ないだろ」

 太刀川は、針金ハンガーで山田の薄い頭をパシパシと叩き始めた。

太刀川「あんたもハムラ繊維を見ただろ。あれは夢の繊維だわ。単に布だけじゃない。航空機や宇宙産業までをもカバーできる夢の素材よ」

山田「それはそうですが・・・、でも、あれを作るには、まだ我々の会社ではとても無理だと思います」

太刀川「無理だと~っ? ライセンス契約でNAXANational Aerospace Exploration Agency)の最先端テクノロジーの詰まった技術をそのまま活用できるんだから、何も難しいことはないでしょう!」

田「先方からは製造にかかる設備を一式提供されることになっていますが、それならば何もうちが引き受けなくてもどこでも作れるはずです。どうしてうちに話が来るのかよく理解できません」

太刀川「それが富士見物産の須藤さんの計らいなんだよ。今までの両社のつきあいの結果だろう」

山田「そうだとしても、提供される設備の中身は全くのブラックボックスで詳細は一切知らされていません。その運用が可能かどうかの検証すらできない状況です」

太刀川「もういい。お前のしけた面(ツラ)など見たくもない。出ていけ!」

太刀川はそういうや、持っていたワイヤーハンガーを振り上げた。山田と三谷は、顔を見合せてうつむくと、そのまま社長室を後にした。

三谷「部長、いいんですか?今回のハムラ―繊維については未知のことが多すぎます。もしも途中で富士見物産に梯子をはずされたりしたら万事休すです」

 社長室を出るやいなや、三谷は山田部長に切り出した。

山田「分かっている。だが、社長に意見を言った結果がこれだ」

 山田は吐き捨てるように呟いた。

三谷「最近の社長はおかしいですよ。前はあんなじゃなかったのに」

そう言った三谷は、社長室のドアに視線を送った。

山田「・・・もはや俺たちの力ではどうしようもない。まあ、サラリーマンなんてものはしょせんこんなもんなのかもしれん。給料で家族を人質にとられているようなもんだ。会社の中だけじゃない。人生全てが縛られている。まあ奴隷だな」

 そう自嘲気味につぶやきながら首を振る山田に、三谷はかける言葉を探した。

三谷「しかし部長はお強いですね」

山田「なーに、打たれ強いだけが取り柄さ。世の中それだけで生きてはいける。だが、このままだと・・・」

 山田は、「このままだと会社に忠誠を尽くしても、その会社の存続自体が危うくなる可能性もある。そうなったらそれこそ人質である家族を路頭に迷わせてしまう」と言いたかったが、さすがにそれだけは口に出すのははばかれた。

 

(シーン3)

 太刀川の住む高層マンションの一室。窓の外は真っ暗だった。ただ、眼下を見下ろせば無数の灯りがまるで海のように広がっていた。しかし、それすらも目に入ることもなく、広く薄暗いリビングには太刀川がたった一人でソファに座っていた。その手には電話が握られ、受話器に向かって太刀川は語りかけていた。

太刀川「お願い、真美(まみ)に合わせて」

 電話の相手は、太刀川の前夫だった。

電話「真美の養育権がこちらにあることは、すでに裁判で決まったことだろう」

太刀川「そんなことは分かってるわ・・・」

 太刀川の声が震えていた。

電話「だいたいこうなったのは全部お前のせいだろう」

太刀川「・・・」

電話「まだ幼子がいるというのに、お前は仕事に没頭し、家庭を顧みなかった。真美が高熱で危なかった時にも、お前は真美より仕事を優先して病院にも来なかった。そんな女に大事な娘を任せられると思うか?」

太刀川「違うのよ。あれは、あれはどうしても・・・」

電話「もういい。お前の言い訳はもう何百回も聞いている。それも含めてお前が母親失格だということは裁判で正式に認められたことだ。いい加減に現実を受け入れたらどうだ」

太刀川「だから、何も真美を取り戻したいというんじゃないわ。ただ、真美に合わせて欲しいと言っているだけじゃない。裁判では年に数回は合せてくれるっていう話だったじゃない」

電話「それは真美に新しい母親ができるまでの話だ。今は真美には立派な母親がいる。真美もなついている。やっと落ち着いてきた。家庭の平穏を乱さないでくれ!」

その時、電話の奥で「ただいま」という女性の声がしたのが太刀川の耳に入った。

電話の奥の声「あら、電話中だったの。ごめんなさい」

電話「いや、なんでもない。用件は終わった」

 その言葉を最後に電話はプツリと切られた。太刀川はしばし受話器を握っていたが、やがて、黒いテーブルの上に大粒の涙がポツリポツリと光る痕をつけていった。

 

(シーン4)

㈱MS紡績の工場の一角。結二は他の社員とともにハムラ―繊維の見本の性能を試していた。性能試験の作業を息を凝らして見つめていたのは、営業課長の三谷だった。歳は結二の三つ上だったが、それ以上に結二には三谷は頼りがいのある存在だった。実際、営業部は三谷抜きでは考えられず、山田部長の信任も厚かった。二人のいるところに、会社の事務服姿の小酒井美樹が、麦茶の入ったコップをお盆に載せて重そうに持って現れた。美紀は一昨年入社したばかりのかわいらしい事務員で、やっと事務服が板についてきた頃だった。美樹は彼らの作業を邪魔しないようにと、お盆を近くの作業の邪魔にならないところに置いた。

美樹「どうぞ・・・」

結二が気がつかないほどの小さな声で美樹は促したつもりだったが、結二はすぐに気付いて振り返ると、目で美樹に笑みを送ってきた。美樹も笑みで返すと、そのまま興味深そうに作業を見守った。

結二「この繊維はおそろしく強い。特に引っ張り強度が強いから、小魚用の釣り糸ぐらいの太さにしても、人間の大人一人ぐらいならば軽々と釣りあげられるだろう」

三谷「フューチャー商事から提示されたスペックと同じようだな」

結二「それと普通のハサミでは切ることさえできない。おそらくダイアモンド刃の特殊な機器を使わないと切れないんじゃないかな」

三谷「ふ~む、それほどなのか・・・」

結二「熱にはあまり強くはないが、それでも通常のナイロンロープよりもはるかに熱にも強い」

三谷「材料は何だか分かるかい?」

結二「おそらく合成樹脂だとは思うが、詳細は全く分からない。場合によればナノレベルで織り込んだ炭素繊維かもしれん」

三谷「何に使えそうだ?」

結二「ロープに使えば画期的なものになるが、それではもったいなさすぎる。パソコンのケースにしたら軽量で丈夫なものになるはずだし、他にも自動車のボディや飛行機の機体にも応用できるし、宇宙船や医療機具にも使えるかもしれない」

三谷「それもフューチャー商事の満田(まんだ)代表が言っていたことと同じだ・・・」

三谷は、自分の心配が老婆心だったのかという思いが一瞬脳裏をよぎった。

結二「勝(まさる)※1、何か気がかりなことでもあるのか?」※1:三谷のファーストネームは勝である

三谷「実は、腑に落ちないことが多すぎるんだ。書類は完ぺきに整っているが、逆に完全すぎて不自然なんだ。もちろん、何か確証があるわけでもないが、俺の営業マンとしてのカンがやばいと言っているんだ」

 黙って聞いている結二に、三谷は続けて語りかけた。

三谷「こんなに凄い最先端素材だぞ。どうしてうちになんかに話を持ちかけるんだ。本当なら世界中から引く手あまたのはずだ」

結二「たしか、NAXAとフューチャー商事が共同開発したのだろう。フューチャー商事の意向があるんじゃないか」

三谷「だが、フューチャー商事は去年できたばかりの会社なんだ。おかしいとは思わないか」

結二「それは日本法人のことだろう。アメリカ法人はもともと古いんじゃなかったかい」

三谷「たしかに書類上はそうだが、いくら調べてもフューチャー商事のアメリカ法人の3年以上前の活動実績が出てこないんだ」

結二「それは変だなあ」

三谷「そうだろう。それに、フューチャー商事と富士見物産の関係も最近始まったばかりのようだ。そのことは須藤部長の話と矛盾するからなおさら不可解なんだ。場合によれば、フューチャー商事の満田と富士見物産の須藤部長がグルで何か企んでいるのかもしれん」

結二「いくらなんでもそれは考えすぎだろう。あの富士見物産がそんなことをするメリットが何も思い浮かばない」

三谷「それは結二の言うとおりなんだが・・・」

結二「そんなに心配ならば、ちゃんと社長に話したらどうだい」

三谷「部長からはその懸念を社長に伝えてもらったが、社長は取り付く島もない。あれがかつては飛ぶ鳥落とす勢いだった敏腕社長と同一人物だとはとても思えない」

 三谷は首を振って大きく溜息をついた。

三谷「まず、頭の整理をしてみよう。最も素朴な疑問は、NAXAがこんなすぐれた繊維を開発したのなら、どうしてわざわざ外国でライセンス生産なんかする必要があったのかということだ」

結二「それは・・・、大量生産したいからじゃないのか?」

三谷「それだったら、もっと人件費の安い国でやればいい」

結二「確かにそのとおりだ」

三谷「本当にNAXAとフューチャー商事が共同でハムラー繊維を開発したとしよう。その場合、どうするのが両社にとってメリットが大きいかを考えればいい。しかし、今の契約内容はとても向こうにとって最良とは思えない。それならば、もしも、満田の言うことは嘘で、問題のあるものを押し売りしているのだとしたら・・・」

結二「つまり詐欺ということか」

三谷「ああ、そうだ。その前提で考えてみると、例えば、何か問題があって生産に移れないのだとしたらどうなる?」

結二は顎に手を当てて考え込んだ。

結二「問題があるとすれば、製品自体の問題ではないだろう。試作品は見たところ非の打ち所がなかった。可能性があるとすれば、製造コストか生産過程での問題しか考えられないなあ」

三谷「なるほど、生産過程か」

三谷は手を打った。

三谷「よし、それだけ分かれば何とかなりそうだな」

 三谷は意を決して椅子から立ち上がった。

 そんな二人のやりとりを、美樹は脇で黙って見守っていた。

 

(シーン5)

 料亭の一室。富士見物産営業部長の須藤と同じく富士見物産の居山営業課長が並んで座り、向かい合わせの形でフューチャー商事の満田が同席していた。

須藤「今回の渡米は長かったですねえ」

 満田の持つ盃に、須藤は日本酒を注ぎつつ語りかけた。須藤は学生時代にラグビーでならしていたが、がっしりとした体格に四角い顔がそれを物語っていた。満田は、対照的に細身で、ウェーブのかかった髪を長めに伸ばし、ストライプの派手目のスーツに身を包んでいた。

満田「ええ、ハムラ―繊維について細かいことまで詰める必要がありましたから。でも、もう全て大丈夫です。すべてクリアになりました。これで無事に契約に移れます、須藤部長ももう大船に乗ったつもりで安心してください」

須藤「それはご苦労様です。我が富士見物産としても本プロジェクトには大きな期待を寄せています。まさに次世代の最先端素材ですからね」

満田「その点は太鼓判を押しますよ。なにせ十年間もNAXAと共同で極秘裏に進めてきたプロジェクトです。こんな素材は世界中捜してもどこにもありませんよ」

その時、満田の携帯電話が鳴った。差出人を確認した満田は一瞬眉間に縦皺を寄せたが、すぐに平静をよそおった。

満田「ちょっと失礼します。少し長くなると思いますが」

 と言って席を立った。満田が部屋を出て行ったことを確認すると、課長の居山は須藤にそっと話しかけた。

居山「部長、満田代表は大丈夫ですか?」

須藤「大丈夫か?だと。何か心配なことでもあるのか?」

 須藤は盃を口に運びながら呟いた。

居山「NAXAと共同開発というのがどうも腑に落ちないのですが」

須藤「なぜだ?今更。別におかしなことはないだろう」

居山「調べてみたんですが、NAXAは海外の企業とそのような共同開発をした形跡が見当たらないんです」

須藤「だから極秘開発なんだろう」

 須藤は意に介さずに盃をあおった。

須藤「フューチャー商事の現地法人はアメリカ国内法人だろう」

居山「ですが、それまでほとんど実績のなかった民間企業と共同開発に踏み切るなんてことはあり得ません」

須藤「なるほど・・・、だが疑い出したらきりがないぞ。ハムラ―繊維の実物を見ただろう。あれは確かに夢の素材だ」

居山「確かにそう思いますが、明日の契約を延ばせませんか」

須藤「もしもお前の言うように、不審なことがあるとしても、これまで交渉を積み上げてきた経緯がある。それに、早期契約を催促してきたのはこちらの方だぞ」

居山「それはそうですが・・・」

 須藤は顎に手をやって思案するしぐさを見せたが、すぐに顔を上げると居山を見つめた。

須藤「今回のプロジェクトは夢がある。うまくいけばわが社に多大な利益をもたらすだろう。それに・・・」

須藤は居山に身を寄せた。

須藤「・・大きい声では言えぬが、わが社には全くリスクはない」

居山は、はっとした顔で須藤を見なおした。

須藤「だってそうだろう。実質的にフューチャー商事とライセンス契約を結ぶのはMS紡績だ。もちろんわが社にも多少のリスクはあるが、それすらもMS紡績に押しつけられるような契約内容にしてある。たとえ何かあったとしても我が社には不利益が生じることはない」

 驚いた面持ちの居山に向かって須藤は続けた。

須藤「これが俺のやり方だ。自分の手は汚さず他の者にリスクをとってもらう。だが、利益はそれ以上いただく。そういうやり方を取っている限り、絶対に失敗することはない。・・・だが、周りの者が失敗することはあるがな」

居山は須藤のそんな面は噂ではよく耳にしていた。だが、改めて本人の口から聞くと、背筋にぞっとしたものを感ぜずにはいられなかった。

ちょうどその時、襖が開き、満田が満面の笑みで入ってきた。

満田「お待たせしました。アメリカから朗報です。すぐにも契約は可能です」

須藤「それはいい知らせですなあ。今宵はゆっくり飲み明かしましょう」

 宴席の明かりはかなり遅くまで灯っていた。

 

(シーン6)

 縄染屋(なわぞめや)の水島麗子(みずしまれいこ)の家。自由が丘の駅前からやや離れた閑静な住宅街に位置している。人気の町中にしてはやや広めの庭で、絣姿の麗子が麻縄を赤と紺の二色に染め上げていた。麗子はもう四十過ぎの独り身で、絣姿がよく似合っていた。午前のさわやかな気に包まれて、まだ東の空にある太陽から注がれる光に、干された麻縄が照らされていた。

結二「水島先生!」

 その声に、麗子が振り向くと、結二が桧皮葺(ひわだぶき)の庭門から手を振っていた。麗子は作業の手を休め、庭門に歩み寄ると、閂(かんぬき)をはずした。

麗子「あら、いらっしゃい。頼まれた縄はいい感じに染まっているわよ」

 麗子の言うように、庭に乾された紅紺二色で染まった麻縄が風でゆっくりと揺れていた。結二はその縄の一つを掌に乗せて満足そうに眺めた。

麗子「この縄は油分が多いから染めるのが大変なのよ」

結二「助かります。こんなにきれいに染めていただけるのは先生のところだけです。」

麗子「そう言っていただけるとうれしいわ」

 結二は持ってきたバッグの中から、十本あまりの麻縄を取り出した。

結二「これもお願いできますか」

麗子「あら、いいわよ。そこに置いておいて」

結二は庭を見まわすと、染料のタライが作業のしづらい位置に置かれているのに気付くと、上着を脱いでタライの位置を移動させはじめた。

麗子「あら、そんなことしなくていいのよ」

結二「力仕事はまかせてください」

 結二はそう言いながら、もういくつかのタライを動かしていた。その後も水島の作業の手伝いをテキパキとこなしていった。

麗子「ご苦労様。もうそれで十分だから奥でゆっくりなさって。今、お茶を入れるから」

結二は顔の汗をぬぐうと、笑顔で答えた。すると、ちょうどその時、水島の家の門扉のチャイムが鳴った。

麗子「誰かしら?」

 水島が門のところまで行くと、そこには三谷が立っていた。

麗子「あら、三谷さん。縄手君に用かしら?」

三谷「ええ」

 三谷はそう返事するや門をくぐり、結二のところに近寄った。

結二「どうした?そんなにあわてて」

三谷「今朝がた契約が結ばれたぞ」

結二「えっ!そんなに早く」

 結二の目が見開かれていた。

三谷「社長一人で契約してきたらしい」

 結二は困ったという顔で首を振った。

三谷「結二、これから六本木のフューチャー商事本社まで行きたいんだが付き合ってくれるか」

結二「もちろんだ。しかし、社長には内緒ということか」

三谷「社長どころか部長にも内緒だ」

結二「分かった。何か問題になったらおれとおまえは一蓮托生だ。一緒に責任取ってやるよ」

 笑顔でそう言う結二に、三谷は肩を叩いた。

三谷「いや責任は俺一人で十分だ。協力してくれるだけでいい。感謝している」

水島はそんな二人のやりとりをまぶしそうに笑顔で見守っていた。

 

     次号に続く

 

(エンディングナレーション)

「縛り屋、彼は天に代わりて人の心にかかる雲を祓う。その手に握られた縄に込められた思いを誰も知ることはない。今宵、結二はいったい何を縛るのか?」

縄士(なわし)のいでたちである赤い半纏姿の結二の後ろ姿が映し出され、結二はゆっくりと画面の奥に向かって歩いてゆく。

~バックにエンディングテーマ曲が流れる~♪~

 

(テロップ)

 「本番組の内容は全てフィクションです。実在する個人や団体とは一切関係ありません。本番組内で登場する縛りの技法は、専門家の指導のもとに実施したものです。危険ですから絶対に真似をしないでください。」

「縛り指導 喜多征一

キュレーター紹介

謎の作家。詳細不明。

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