瘋癲ノ喜多サン
メカニズム
魂は、あまりにも感動していた。
理由はわからない。ただ、それを美しいと思ったのだ。
なぜ美しいと思ったのか。
何を持って美しさとしたのか。
それはきっと、
どこかで、いつか、
そう思うように仕向けられていたからだ。
教育か、風景か、言葉か、記憶か。
あるいは、もっと原初の感覚
胎内にいたころの響きのような、誰にも説明できない記憶。
美しいとは、与えられたものでも、見つけたものでもなく
埋め込まれたものなのかもしれない。
魂は、すごい勢いで思い乱れていた。
その原因もまた、はっきりとはわからない。
ただ、それをどうしても手にしたいと思った。
手に入れれば、きっとこの乱れは治まる。
そう信じて、追いかけて、もがいて、手にした。
しかし、実物を手にしてしまった瞬間、
魂の乱れは確かに静まったが、
代わりに、ある違和感が胸に残った。
ああ、思っていたときの方が、美しかったかもしれない
美とは、手にする前の、
魂がざわつくその瞬間にこそ宿っていたのだ。
欲望とは、実体ではなく、予感にこそ命を持っている。
感動も、美しさも、乱れも、
すべては目に見えない、仕組みよって動かされている。
自分の奥深くに仕組まれた、名前も形もないメカニズム。
人はそれを、自分の心だと信じている。
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