瘋癲ノ喜多サン

喜多征一物語(男娼縄師)

男娼縄師とは、縛りを入れて快楽に酔わした女性と一晩をともにしてお伽をする縄師のことをいい、江戸時代から現代まで色情(いろごと)として伝承されているのです。最初は僧侶が未亡人などにお伽をするようになりその中で縄を用いるものがいたのが事の始まりだとも伝えられています。後に僧侶のそれとは違い、緊縛をメインにしてお伽をするようになり、文化、教養、礼儀作法を身につけた縄師のことを男娼縄師と称し、男花魁とも呼ばれ、縛りの前には長唄や三味線なども披露し女性を心底楽しませ酔わせる色男のことなのです。



私の師匠の名和征爾(せいじ)は、まさに男娼縄師が本業で全国にタニマチと呼ばれるお客さんが10人ほどいまして全国を行脚していたのです。料金はこころざしとよばれお布施のように金額は決まっていませんが大体一晩で30~50万円で昭和のバブルの頃は、数百万入っていたとも聞いたことがあります。タニマチは誰でもなれるのではなく、タニマチの紹介がなければならなくたとえ紹介されても男娼縄師が気にいらなければ引き受けないと、まさにお金を積んでも寝ない花魁と同じようだといわれ、男花魁とも呼ばれたらしいです。タニマチにおける個人情報はいっさい口外してはならなく隠密行動し私も詳しいことはなにも知りませんでした。名和先生が亡くなられたあと奥さん?恋人?秘書?関係性は知りませんが一緒に暮らしていつも雑用やマネージメントをしていた富さんというとても上品なおばあさんから聞いたのでした。



ハプニングバーでお会いしてから、3カ月後ぐらいにやっと道場に伺うことができました。なんど電話をしても、いないとか忙しいと断られてなかなか住所も教えてもらえなかったのですが、不憫に思った富さんがいろいろ骨を折ってくれたのでした。岐阜県に近い愛知県のとある市に道場はありました。こじんまりとした平屋の日本家屋で決して裕福とはいえないような建物ですが、手入れされた小さな庭 整理整頓のされ生活感のない住居はとても居心地のいい空間でした。なによりも富さんの人柄が最高の癒しでした。表札には、しっかり名和征爾とフルネームで書いてありましたがこれが本名なのか芸名なのか今でも分かりません。先生、富さん(富さんは苗字も知りません)ともに家族、年齢、もちろん誕生日も知りません。ただ品のいい色男爺さんと清楚で気さくなお婆さんということしか知らないのです。ある時には、この二人はもしかしたら北朝鮮のスパイなのかもしれないと思ったこともあったぐらいなのです。



富さんに道場に通されたらもう先生はおいでになられて、明るいとこで目にする先生は80歳手前といった感じですが背筋は伸び色気のあるやっぱりイケメンのお爺さんでした。
するといきなり「私はあのハプバーというところが嫌いでね、あんたはいつもあんなところで遊んどるのか、なにが目的で行くんや」と「ああああ、いやなにか新しいセックスの形はないもかと浮浪しているところでして」腹の中ではじゃあなんで先生はあそこにいたんですかと聞きたかったのですが聞かせない迫力がありました。「ふーん、そんなにセックスがしたいんか」「いいえ、いやしたいにはしたいのですが、ただ入れて出しして入れて出すのはちょっと」としどろもどろで答えますと同席していました富さんが「もう先生そんなにいじめないであげて下さいよ」と笑いながら助け舟を出してくれまして、どやら先生は結構性格が悪いように思われました。「で、今日は何しに来たんや」「はい先生に縄を教えてい頂きたくお願いに上がりました」「私は弟子をとるほど甲斐性もないし、教える技術もない」「いえ、お手伝いだけでもさせて頂けましたら嬉しいのですが」といっても難色を見せる先生に富さんが、「先生縄を教えなくてもこの人なかな男前だし色気もあるからいいじゃないですか」「私から見るとちゃらけた感じに見えるけどなぁ、まぁ富がいうなら男前なんだろうな、まぁちょくちょく遊びに来なさい気が向いたら教えてあげよう」「ありがとうございます、月謝はおいくらお支払いしたらよろしいでしょうか?」「こころざしですよ」「・・・はい、」その後、富さんと相談して月に3万円をお持ちすることになりました。昔は、何人ものお弟子さんがいたようですが、ここ十年はまるで弟子をとってなく実のところ先生も喜んでいたのよと富さんから後から聞きました。ただひとつ気になることがあったのですが、富さんの縄を教えなくてもこの人男前だからという一言です。縄を教えなくても… なんのことだろう。でもとりあえず弟子ということで先生がおいでになるときはいつ来てもいいということなりましたので細かいことは気にせず。ひとまずは、めでたしめでたしということで...
今はまだ知ることのない男娼縄師の一歩が始まったのです。


つづく

前の話を読む【喜多征一物語 師匠との出会い】

キュレーター紹介

逝かせ縄という妙技を操り、多くの女性を快楽の果てと誘う。東京と名古屋に道場を持ち、日本古来の文化である美しい緊縛を多くの生徒に伝承している。美しくなければ緊縛ではない美しい緊縛は気持ちがいい、それは肉体と精神と性が解放されることだ。

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コメント

同級生 2017.08.26 09:11

男娼縄師、どれ程の手管があったんでしょうか。花魁の自負「地女のおよぶところにあらず」ってのを久しぶりに思い出しました。