瘋癲ノ喜多サン

北回帰線

ヘンリー・ミラーの『北回帰線』を読んだのは、
高校二年生の夏だっただろうか、
確か思春期の性真っ盛り暑い日だ。
それ以来、
私はエロスにとり憑かれた。
いや、
エロスに生かされてきた、と言ったほうが近い。

ごつごつした男に憧れて、
いろいろな本を読んだ。
いろんな女と情事をかさねた。
その数よりも、
覚えていないほうが多い。

破滅的な小説家たちの人生を、
自分の未来だと信じていた。
破滅は選べるものだと、
若い頃の私は本気で思っていた。

私が好きなアーティストは、
今も昔も変わらない。
ごつごつしてるくせに女々しくて、
ブサイクなのに、なぜかもてる。
女にも酒にも金にもだらしがなく、
皮肉と理屈で身を守り、
中途はんぱな正義感で
ケンカを売っては、だいたい負ける。
それでも
ロマンチストだけは捨てられない。

まさに
人間らしい
にんげんだ。
そして気がついたら、
私はお望みどおりの
ごつごつしたおっさんになっていた。
小説家でもない。
音楽家でも、画家でも、映画監督でもない。
人を縛る仕事だ。

朝、鏡を見ると、
知らない男が立っている。
身体は重く、腕は痛い、
欲をどこかに忘れてしまった
初老の男だ。

それでもまだ、
あの一冊の本の青臭さは
消えていない。
老いていく速度でしか、
人生は進まないのだと
今さら知りながらね。

 

キュレーター紹介

逝かせ縄という妙技を操り、多くの女性を快楽の果てと誘う。東京と名古屋に道場を持ち、日本古来の文化である美しい緊縛を多くの生徒に伝承している。美しくなければ緊縛ではない美しい緊縛は気持ちがいい、それは肉体と精神と性が解放されることだ。

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